明かりも持たずにコテージを出てきたが、エイリークの眼は夜でもよく見える。時折、どこからか獣や鳥の気配を感じながら、森の先にある丘を目指して歩を進める。やがて視界はひらけ、群青色に星の川が横切る夜空が地平線まで広がった。
丘には大きな天然の岩が横たわっていた。
その上に大きなひとつの影を見止めて、声をかける。
「今晩は、〈明けの明星〉」
すると影は振り返り、その黄金のたてがみを震わせて「やあ、今晩は」と穏やかに答える。
ライオンの姿をした彼は、かつては公爵と呼ばれ、そして今や夜の国の王に与えられた新しい名――〈明けの明星〉として、エイリークが務める〈宵の明星〉と同じ王の側近という役目を得た。
「我らが王の様子はいかがかね」
「健やかにお過ごしではあるよ」
「それは良かった。しかし、記憶は戻っていないのだね」
〈明けの明星〉は少し悲しげに言って、丸い耳を伏せた。
この世界にはこの
そして常若の国と対を成すように存在する国――闇が支配し、死者の国へ続く門が存在する場所が夜の国であった。
幻の国には秩序となって国を統べる王や女王が存在する。もちろん、夜の国にも「王」がいた。闇夜に生きる者たちを庇護し、相談役となり、そして秩序を与える王が。
「皆、王の帰還を待ち望んでいる」
夜の国の玉座は今、主を失っている。
エイリークは無垢な妹の姿を思い起こし、そっと瞳を伏せた。現世に舞い戻り幾月。
唇の先からかすかな吐息が落とされた。
群青の空をもう一度見上げ、冴え冴えと鎮座する月に目を細め、思いを馳せる。
それは、かの美しい故郷のこと。
そして、ある兄妹にかけられた呪いと祝福の数々のこと――。