登場人物と名づけ

物語には登場人物(人ではない場合もある)が必要不可欠なわけですが、そんなとき、悩むことの一つに、彼らの名づけ問題があります。
物語のアイデアが湧き上がってくるとき、私の場合はワンシーンとして現れることが多いです。その中に登場人物が立っているか、もしくは誰かの視点を通して見ている風景だったりと様々なのですが、そこから主人公はどんな人物なのかどんな人が作中に登場するのか……と物語に合わせて肉付けしていきます。そして、その中に含まれるのが名付け作業です。

小説を書くにあたって、登場人物の特徴(口調やしぐさ)や性格を捉える作業はとても大切です。どうするかというと、本編のプロットを組んでいる間に、頭の中でその登場人物に自由に動いてもらいます。話したり歩いたりいろいろ考えたり食べたりしてもらって、その場面ではどんな表情やしぐさや考え方をするのだろう?とつぶさに観察します。「うちの子」という表現がありますが、私はどちらかといえば「物語があっての彼ら」というような位置づけで、一個人の人生を覗き見させてもらっています。自分の頭の中で作った人物なのにね、と思うのですが、なんだか「よく知っている他人」のような感覚なんですよね。

それでも、自分が生み出したものなので、自分の憧れや思想や好きなことがちょくちょく反映されてしまいます……なので、時々似たような性格になってしまうことも。設定として「語学に堪能」もしくは「外国にルーツがある」というのはわりと、無意識に入れてしまう要素です。
ちなみに苦手なのは、外見を考えることです。ぼんやりとイメージはあるのですが、それを描写するとなるとなかなか曲者で、読み手の想像力に任せてしまうこともしばしば。そこが小説のありがたいところです。



そうして、一番大切な名付け!これがたぶん一番の悩みどころです。
私の作品は外国を舞台にすることもあるので、外国人の名前も考えることが多いのですが、そんなとき、一番お世話になっているのは「欧羅巴人名録」というサイトです。いつもありがとうございます。また、好きな児童文学からお借りしたりすることもあります。外国人名は割となじみがあるのと、カタカナということで、名前と苗字の雰囲気が人物に合うかどうかという点だけで決めています。そして時代も考慮しています。

私の書く舞台は19世紀だったり20世紀だったりするので、現代風すぎる名前は避けます。外国名も古風と現代風、流行りがあるのがなかなか難しいところです。と、わりと決めるのが速い外国名に比べて、一番悩ましいのが日本名!いろんな名前がある上に、漢字を使うとなるともう大変です。短編だと名前だけとか苗字だけというときもありますが、最近はフルネームを考えることがすっかり多くなりました。


まず、一番に大切にしているのは音です。
読んだときに一定のリズムがあるようにしています。まずは苗字を考えるのですが、一番お世話になっているのは「名前由来net」さん。ありがとうございます。キーワードになる漢字を一つ決める、または文字数を決めて、そこから苗字検索をかけていくつか候補を上げます。中には苗字を創作することもあります。
「篤坂(あつさか)」「都ノ守(とのもり)」「斎野(いつきの)※さいの、と読むのが一般的」「小鳥羽(ことば)」とかね。ちょっと珍しくて上品な雰囲気の苗字を選ぶのが好きです。お気に入りの字は「斎」と「堂」ですが、偏るといけないので我慢しています……。

そして名前!一番難しい!下手すると数日がかりで名付けることもしばしば。人物像がだいたい定まっているといいのですが、まだ途中の時は困ったものです。名前を付けると人格が固まるので、わりと慎重な作業です。名前も苗字と同じくまずはキーワードになる一文字(漢字)を決めます。例えば「千」という字を入れたいな、とか、少し中性的な名前がいいな、とか、漢字一文字の名前がいいな、とか、古風で貴族的な名前がいいなあとか。

私の書く舞台は過去となることが多いのと華族や名家も出ることがあるので、そんなときはwikiの「日本の華族一覧」を見て名前(読みのほう)をお借りすることもありますね。こういう事情で女の子も「子」の付くことが多くなりがちなのを、なんとか古風な漢字(と思っている)を使って調整しています。あとは、好きなキャラクターや小説からお借りすることも時々あります。赤ちゃんの名づけサイトも参考にするのですが、名前が現代的過ぎることがあって確認程度にしていますね。

そして苗字と名前を組み合わせたときに、あまりごちゃごちゃしないように気を付けています。例えば難しい漢字ばかり並ばないようにしたり、部首が重なりすぎていないかなどを見ながら、最終調整して決定します。



と、私の名づけはこんな感じです。
物語の大事な登場人物で、大切で愛着のある彼らなので、ちゃんと納得できるまで名前は妥協しないようにしています。そして、不思議な感覚なのですが、名前が決まるとふわふわとしていた人格がはっきりくっきりするんですよね。これは本当に不思議で温かな感覚です。人物もそうですが、存在する「もの」に名前を付けるというのは「存在認識」には必要不可欠なんですよね。あえて登場人物をふわふわとさせたくて名付けないこともありますが(大好きな作風です)。
できれば書いたことのない性格の人物も書いてみたいなあ、と願いながら。これからどんな登場人物が増えていくのか、書き手としても楽しみです。